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「俺さ、 駅で地震きたって言ったろ? その時、自販機でコーヒー買ったんだよ。 金のない世界に、自販機。 有り得ないだろ? あの時まだ、 こっちの世界に来てなかったのかなって思ったんだけど…… その時、電車が通ったんだ。 こっちの電車だよな。 バスと同じゼブラ柄。」 「あ~! あの電車なら、俺も乗ったよ。」 「どこに続いてるんだ?」 「綺麗なとこだったよ。 綺麗な建物が一つあった。」 「一つって、なんだよ」 「あ~。一つだけ。 後は見渡す限りの森。 他には、何にもなかった」 「建物には、入ったのか?」 「いや……入らない」 リクの話しに、イラついた。 「なんだよ! 奥歯にもの詰まったみたいな言い方するなよ。 ちゃんと話せよ」 リクは頷いた。 「行けばわかるよ…… なんかおかしいんだ。 なんて言ったらいいんだろう。 お城かな……? 閉ざされた城 今なら慶太も行けるよ。 携帯、まだそれ持ってるし あの日、俺もこっちに来たばっかりだったから 行けたんだ。 必死だったし 帰れるって信じてた。 でも……」 リクが、黙り込んでしまった。 「でもなんだよ……」 慶太の声も、小さくなる。 帰れないのかもしれない リクは探したんだ。 たった一人でこの世界に来て 必死に帰り道を探した。 慶太は リクの気持ちが わかる気がした。 「今日は帰るわ。 俺、昨日全然寝てないんだ」 そう言ってから 美咲に連絡をしていなかった事に気づく。 「なぁ、リク…… 携帯置いてさ、 明日の夜、 一緒にこの街歩くの 付き合ってくれないか?」 リクは立ち上がった慶太を見て、 弱く笑って頷いた。 「明後日、仕事休みだし付き合うよ。 一緒に来た子も、明後日休みだよ」 「なんで、知ってるんだ?」 「工場ゾーンは、 明日は休みだから」 リクが笑って答えた。 慶太は頷いて リクの部屋を出た。
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