9/26
前へ
/397ページ
次へ
【ピー―――!!】 「20005番!」 けたたましい笛の音とともに 番号を呼ばれて、 美咲は立ち竦んだ。 「作業に集中しなさい!」 また、やってしまった。 バカにしないで! 私は奴隷なんかじゃない! 作業に集中? 出来る訳がないじゃない!! 喚きたい衝動にかられる。 でも…… 意味のわからない 減点が怖かった。 何を意味するのかも わからない減点。 周りの人間が 俯いて震えている。 どんな罰則があるのか お願い…… 誰か私に教えて…… 美咲の前に 立ちはだかるようにして注意する警備員に 美咲は、 頷いて頭を下げた。 「20005番!減点10点!」 工場入り口に プールの監視員のような梯子のついた背の高い椅子。 そこに 腰をかけた初老の警備員に向かって 大きく手をあげ 美咲の番号を読み上げる美咲を注意した警備員。 強く背中を押されて 美咲はまた、 作業を始めた。 この工場は、 やたらに暑い。 汗がポタポタと、 作業している美咲の手の甲に、落ちる。 流れの止まらない ベルトコンベアーは 汗を拭う、余裕すら与えてくれない。 朝まで 眠ってしまった。 こんな状況なのに、 携帯にも気付かず ぐっすりと眠ってしまった無神経な自分に腹が立つ。 慶太と、話す事も出来ずに 母親に たたき起こされて そのまま、又ここで働いている。 慶くん…… 今あなたは どこにいるの? 私は今日も、 訳の分からない こんなところで奴隷みたいに 働いてるんだよ…… 昼休みになれば、 携帯が使える。 美咲は、自分にそう言い聞かせた。 でも、 壁にかけてある大きな時計の針は 壊れてるみたいに のろのろと動く。 頭が、ぼ~とする。 目が、涙で霞む。 忙しく動かす美咲の手に 汗と涙が入り混じって落ちる。 このままずっと 私はここで 働き続けるのかもしれない。 工場内が、 急にざわめき始めた。 ベルトコンベアーが 音を立てて止まった。 全員が姿勢を正して見た先には 小さな少年が立っていた。
/397ページ

最初のコメントを投稿しよう!

375人が本棚に入れています
本棚に追加