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「ねぇ、ママ。
熊は、寝てばっかりでつまんないね」
「見て!象だよ!凄いおっきい!」
芝生が広がる大きな広場に、
思い思いにシートをひいて、家族連れやカップルが弁当を食べている。
聡と瑞穂も、噴水の近くにシートを広げて
足を伸ばして座った。
弁当をバックから取り出しながら、瑞穂は聡に話しかけた。
「よかったね!
トオル楽しそう。
あんなに喜んでるトオル、久しぶりに見た」
瑞穂が聡の腕にもたれかかって、嬉しそうに言った。
「あ~!
俺もびっくりしたよ。
家にいると、本ばっかり読んでるし、
飯食ってる時も、黙って黙々と食ってるしな」
2人は、目を合わせて笑った。
「トオル~!
お弁当食べるよ~!」
肩をすくめて、聡が言った。
「あいつ夢中だな。
聞こえてないみたいだぞ。ちょっと、呼んでくるよ」
聡は芝生にひいたシートから立ち上がり、
靴を履いてトオルを呼びに向かった
「トオル。飯だぞ!」
トオルの頭を軽くポンと叩いて聡は隣に座った。
「虎かぁ~!なんか汚いなぁ真っ黒だ」
頷いたトオルは、虎の檻の前から離れずに、食い入るように見ている。
「ほら、トオル行くぞ!ママが頑張って早起きして弁当作ったから、早く行って食べないと悲しむぞ」
「ねぇパパ。
どうして、この虎こんな狭い檻に入れられてるの?
さっき見た猿はさ、
広いとこにいて、みんな楽しそうだったよ」
「あ~!確かに、この檻狭いよな」
「可哀想だよ。
これじゃ走れないよね?」
トオルは、泣きそうな顔で聡を見た。
「土地が足んないんだよ。この動物園、あんまり広くないからさ」
「でも見て!
ママがいるあそこの広場あんなに広いよ。
噴水だってあるし、
すべり台もブランコもある。
すべり台、なくせば広くなるのにね」
トオルはムキになって言った。
「よし!
パパが今日、家帰ってから、ネットで抗議してやる!」
聡は、トオルを抱き上げて真面目な顔で答えた。
「虎だけじゃないよ!
隣のライオンも、熊も
みんなだよ」
聡はトオルを高く抱き上げて言った。
「トオルは優しいなぁ。本当にあれじゃ可哀想だ。
さぁ~て、弁当食うぞ!ママの、弁当楽しみだな」
聡はトオルを抱きながら頭をごしごしと撫でた。
弁当を食べながらもトオルは黙り込んでいる。
「トオルどしたの?」
瑞穂が心配そうに話しかけた。
「やっぱりおかしいよ……」
トオルは不満そうにポツリと言ってため息をついた。
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