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あちこちから笛の音が鳴り響く。 混雑したビルの中 明を見失わないように慶太は必死に後を追った。 配給の最後尾を見つけて明が慶太を見て、話しかけてきた。 「やっと満足に食えるな」 ニヤリと笑った明に、 慶太は頷いた。 一段高い場所から、 警備員の服を着たやつらが 番号を読み上げて 大きな袋を手渡す。 「金は、いつ払うんだ?」 「かね?なんだそれ?」 不思議そうに首を傾げる明に、 慶太は首を振った。 「いや……なんでもない」 (お前、今日どうかしてるぞ。) 今日1日、明に何度も言われた言葉。 無駄に繰り返すやりとり。 もうたくさんだった。 配給なんだ。 この世界に、金は存在しない。 つまり、 あいつらから食べ物を分け与えられる。 金のいらない世界。 俺も昔、そんな時代になればいい。 そう思い描いたじゃないか。 つまり…… 働いた報酬が、そのまま食べ物になる。 慶太は配られる黒い袋を見つめた。 金……? 地震の後、美咲ちゃんと俺は、駅前のベンチに座った。 あの時、俺達は自販機でコーヒーを買った。 じゃあ、あの時はまだ この世界に俺達はいなかった? いや…… 違う。美咲ちゃんはあの時ベンチに座って俺に言ったじゃないか。 ゼブラ柄の電車がきたって、それを見て二人で笑ったんだ。 駅だ…… きっとあの場所だ。 何か手掛かりがあるかもしれない。 慶太は、 ポケットの携帯をぎゅっと握りしめた。
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