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◇
月明かりがぼんやり差し込んでいる。
壁際に置かれたセミダブルベッドまで、光は届かない。
ぐしゃぐしゃによれたシーツ。ベッドの上に枕はひとつ。もうひとつの枕は、ベッドとは反対の壁の下に落ちている。
キラキラ輝くガラスの破片を、詩織は無表情のまま見下ろしていた。
薄手の白いキャミソールワンピース。下着のラインも、背中に浮き出た骨も透けて見えた。
ぼさぼさに乱れた黒髪が揺れた。
詩織は裸足のまま、風のとおる窓へ近づこうとした。
俺は無意識のうちに、詩織の小さな肩に両腕を伸ばしていた。腕のなかにおさまった詩織の身体は、力を込めたら呆気なく折れてしまいそうだった。
まばたきひとつしないで、床に散らばった窓ガラスの欠片を見つめている。詩織の耳元で、これ以上冷静さを失わないように努めながら、声音を抑えて言った。
「あかんって、怪我したらどうするん」
詩織は俺を見ない。
ただ、ぽつりと小さく呟いた。
「……もう、嫌や」
かさついた唇が、骨の浮いた手が、腕が震え出す。
「え?」
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