964人が本棚に入れています
本棚に追加
「嫌、……イヤ、……嫌、嫌、嫌、イヤや!!」
震える両手で頭を押さえ、詩織は「嫌、イヤ」と繰り返す。呼吸が乱れ、高い声はもはや悲鳴のよう。
「詩織!?」
前かがみに崩れ落ちそうになる詩織の身体を、強引にこちらに向かせて抱きしめた。
とうとう声をあげて泣き出した詩織を。
こんな形で。
こんなふうに。
抱きしめることになるなんて。
本来、この役目は、俺の親友であり詩織の恋人であるコウジのものだ。
この部屋は、コウジと詩織の帰ってくる部屋なんだ。
なのに、肝心のコウジの姿がない。
コウジは夏に交通事故を起こした。それで左手を負傷し、ギターを弾くことができなくなってしまった。
コウジのギターへの熱意を知らないわけではない。
今も、この部屋の隅に、黒いギターケースが捨てられずに残っている。あのなかには、コウジが大切にしているギターも収まっているはずだ。
最初のコメントを投稿しよう!