悪女と無知(あめとむち)

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「おい。ムッちん。りっちゃんが村に帰って来たらしいぞ」 りっちゃんというのは件の小悪魔のことでして、はやくも村では噂になったのであります そして、ムッチンと呼ばれたのは村山という男 この男。人はいいし、愛想もいい、非常に人望もある村の人気者なんですが……残念なことに、ドが付くほど頭が悪い。いや、頭が悪いってより、人を疑うことを知らないいい男なんだが、他のことも知らない。驚くほどものを知らない男でありました だから、村山のムッチンでなく、無知のムッチン。それがアダ名の由縁なんですが、人がいいもんだから、そう言われても怒らない ………まあ、本物のバカだから怒らないのかも知れませんが…… それでこの男、よせばいいのに子供の頃から小悪魔だったりっちゃんこと律子に惚れてまして まあ、人がいいから人を騙すのを楽しんでるなんて予測もつかないからなのか、いくら周りが言っても、その想いを曲げやしない それに「身の丈にあった女にしとけ」と言ったところで、頭が悪いもんだから、実は誰とも身の丈なんて合うわけがない すると、どうせ誰に惚れたところで成就はしねえ、ならば惚れさせといた方が幸せなんじゃねえか……周りもそんな感じで、ムッチンの片想いを見守って見守って見守って………気がつきゃ、もう四十路手前、いい加減、律子とでなくても、生涯だれとも付き合うことないのか……さすがのムッチンもそう感じ始めた折りに、律子が村に戻ってきたのです
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