王子

2/6
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 ある時、自分が王子なのだとしっかりとした自覚のない王子様が城を抜け出しました。王様は以前から王子の威厳や覇気のなさに愛想を尽かしていたので、内密に済ませようと言うことにしました。直ぐに王子の影武者が身代わりになり、王子が居なくなったことは大臣ら意外には全く知らされませんでした。そして気が付いた者もいません。王子の影武者は王子と全く瓜二つだったので、服を王子の物にしてしまえば誰も影武者だとはわかりませんでした。しかし、瓜二つでも中身までは同じではありませんでした。影武者の性格は王子と全く正反対で、威勢が良く怖い物知らずで、よく無茶ばかりする少年でしたから、なるべく出歩かないよう、静かにしているように命令されていました。  王も王妃も、大臣らも王子は直ぐに見つかるだろうと思っていて、何時もと替わりのない日々を過ごしました。ですが、大臣らの捜索の甲斐なく、一週間以上が過ぎても王子は見つかりません。そんな時、影武者の所に手紙が届きました。手紙と言っても其れは林檎に書かれていました。影武者のおやつの籠に紛れて潜ませてあったのです。其処には、影武者の王子様にと宛てていて、一人で城の裏庭に来るようにと書かれていました。お茶の時間が済むと影武者はその林檎を持って裏庭に向かいました。勿論一人でです。彼なりに考えがあって、誰にも知らせようともしませんでした。  裏庭につくと影武者は少し奥まったところに林檎園が在るのを思い出して、其処に向かいます。林檎を囓りながら行くと、一番手前の林檎の木の下に少年が座っていました。少年は少し草臥れた服を着ていて、少し汚れていました。影武者が駆け寄ってまじまじ見ると、やはり少年は居なくなっていた王子でした。影武者は跪いて家臣の礼をしようとしましたが、し終わる前に慌てた王子に立たせられてしまいました。そしてあたりを見回した王子の方が影武者に跪いて礼をします。影武者は元々自尊心が強かったので混乱しつつも悪い気はしませんでした。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!