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「だから、これでもう会うのは最後なんだって。」
彼女は顔を上げ、真っ直ぐに僕を見た。彼女の澄んだ瞳が僕を見据える。その目は微かに潤んでいた。
「……。」
「だから、これあげるね。」
「え?」
ルシアがくれたのは、銀のブレスだった。ひとつだけ、小さな赤い石がはめ込まれている。
「お揃い。と言うよりは色違い。」
ルシアは同じデザインで、青い石がはめられたブレスを見せた。
「良いの?」
そう聞くと、ルシアは返事の変わりに僕を抱き締めた。恋愛よりは友情だと思う。だってまだ十歳くらいだ。でも僕は、温かさと同時に心臓がバクバクしているのを感じた。
「私の最初で最後のプレゼントだから、もらってくれないと怒るよ。」
僕の耳元で彼女はこう言った。
「わかった。」
僕が答えると彼女は強引に僕をひっぺがす。
「じゃあ、私行くから。」
「うん。元気でね。」
それだけの言葉を交わすと、ルシアは走り去って行った。もっと話をしたい、もっと一緒に居たい。そんな気持ちを振り切るようにするためか、一度も振り返る事無く。どんどん距離が遠くなっていき、やがて彼女の白いワンピースが視界から消えた。
待って。行かないで。とは言えなかった。言ったとしてもどうにもならないことは幼いながらわかっていたはずなのに、涙が止まらなかったんだ。
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