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しっかし、今日は久々に昔の夢を見たな…。
俺は左手につけた黒いリストバンドを外した。
昔、盗賊などに度々狙われた為、人目につかないよう隠しているが、その下にはかつてルシアに貰ったブレスを着けている。
昔と変わりなく赤い石は綺麗で、日差しを受けて輝いていた。
「俺とお前は、かなり変わったよな。」
誰にも聞かれない位に小さく呟いた。
彼女――ルシアは、あ、呼び捨てにしちゃまずかったか。
声に出していたらそれこそ処刑もんだ。
ルシア姫はその名の通りこの国の王女だ。
昔は呼び捨てにしてたじゃんって?
いや、あの時は身分とか知らなかったから…。
あの日以降、彼女とちゃんと会うことはなかった。何度か彼女の元へ行ってみたが、憲兵につまみだされた。
身の程をわきまえろとか何とか言われたっけなぁ。
今では随分と距離が遠くなってしまったもんだ。
ルシアのいる城の上層部には俺は入ることさえ許されないし?
彼女の部屋があるらしい所を見たが、壁しか見えなかった。
そうしているうちに、集会は解散となり、俺は渋々団長室へと向かった。
「失礼しまーす。」
ドアを開けたと同時に喉元に刀を突き付けられた。
「お、相変わらず怖いっすね。団長。」
「貴様は相変わらず軽いな。セイル。」
鋭い目で睨みながら、リグルス団長は刀を離した。
団長室は質素でソファーとテーブル、簡単なキッチンと食器のみで、無駄にスペースを持ち余している所だ。
俺はあえてリグルスが普段座っている方の良質のソファーに腰掛ける。
そして、彼はあえてかどうかは知らないが俺ごとソファーを蹴っ飛ばした。
べちっ!
顔面がテーブルにそのままヒットする。
「貴様が座るのは向こうだ。」
「ひでえなぁ、痛いっすよ。」
俺は渋々起き上がり、団長に指定された方の椅子に腰掛けた。
「遅刻は今日で何回目だ?」
険のある口調でリグルスが尋ねてくる。
「あ、今日イメチェンしました?似合ってますよ。」
「…遅刻の回数を聞いている!」
しらばっくれようとしたが、駄目だった。おもいっきり睨まれる。
「えーと、確か9回目かな?」
「10回目だ!」
恐る恐る言ってみたら、手帳を見ながら彼に怒鳴られた。メモしてあったか…。
「よって今日から貴様の雑務担当はトイレ掃除だ!」
「マジっすか…。」
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