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家に帰って部屋に着いてから、南先生の本を買い逃したことを思い出した。
「ああーー!!買い逃したぁ!アイツのせいだ、徹のせいだ!何なんだよチクショオ!もうアイツに合わす顔ないよぉ!」
ベッドに倒れて、愛用の抱き枕「長ウサギちゃん」(ウサギの腹が伸びているような長い抱き枕のことだ)を抱きしめながら足をジタバタさせた。
「うるさいんだけど」
突然部屋のドアが開いて妹が顔を出して、眉間にシワを寄せながら冷たい声で言った。
妹は可愛げがない。
僕のことを、こいつも馬鹿にしている。
だけど妹は僕の唯一の理解者だった。
なにせ、妹も腐女子だからだ。
元々、妹が腐向けの漫画を持っていたのを僕が見てハマってしまったのがきっかけだ。
妹にそう怒られたので、ごめん、とだけ答えて
「あのさ、南先生の新刊買えなかったんだよ」
と言うと、妹はさっきよりも目を吊り上げた。
「はぁ!?ふざっけんなよ!あれだけ頼んだだろーが!もういっぺん行ってこい!」
と怒鳴り散らかした。こいつ、本当に女なのか?
妹いわく「腐女子はこんなもん」と言ってるのだがお前を基準にするなと言いたいよ。
「ごめん。僕もショックなんだから許してよ!」
妹は溜息をつくと、
「そういやさぁ、今さっき腐女子界隈で広まった画像があんのよ。これ、あんたの学校の制服じゃない?」
と言って、妹は僕に携帯を差し出した。
携帯に写る画像には、確かに僕の学校の制服を着た男子生徒2人がいた。
顔にはモザイクがかけられていたけど、その2人はかなり近い距離だった。
まるでキスしてるみたいにも見えるけど――……
って、あれ?これ……今日僕が行った本屋じゃないか!!
つまり……今日の徹と僕とのやり取りを見ていた人が撮影したんだ。
ああ、今の世の中って恐ろしい。ネットって恐ろしい。
「なんかさ、本屋行った人が『リアル男子高校生のBL見たァァァ!』って言って画像貼っつけてんの」
と妹は少し嬉しそうに言う。
……妹、それ実の兄だよ……。
さすがに言えなかった。
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