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徹は部室を颯爽と出て行った。
残された部員は、しばらくの沈黙の後口を開いた。
「何だよ、徹のやつ。調子乗ってねぇか」
「1年のくせに……」
と、口々に徹の悪口を言い始めた。
だが、彼らも分かっているのだろう。
徹の言い分は筋が通っているから、これ以上徹を悪く言っても自分達が惨めになるだけだと。
それに、いつも無表情なテツが眉間を吊り上げさせながら怒鳴ったという状況を誰も呑みこめないでいた。
ついに誰も口を開かなくなり、黙々と帰り仕度をして出て行く。
ガランとした部室には僕1人がただぼぅっと突っ立っていた。
徹は僕の為に怒鳴ってくれたんだろうか――。
いや、徹の事だから、ただサッカーに対する彼らの姿勢に怒っただけかもしれない。
だけど、そうだとしても僕は嬉しかった。
1人になったから、もういいよね。
堪え切れなくて、部室で涙を流した。
タオルに顔をうずめながら声を出さず泣いた。
これはさっきの悔し泣きじゃない。
嬉しくて泣いてるんだ。
今度徹にお礼言わなきゃ。
徹のこと冷たいなんて思ってたことが申し訳ない。
案外、徹は「良い人」なんだ。
それは多分僕に対してではない。
きっと、どんな事にでも真っすぐなんだ。
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