こねこの一日

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 すると不意に声が聞えた。 「眼鏡は外さないの?」 「え?」  誰も入っていないものだと思っていたので、驚いて言葉も続かない。取り敢えず、声のした方を向くと巽が湯船で暖まっていた。 「おはよ」  巽はこっちを向いたまま微笑む。オレは何処か引っかかる微笑みに困惑を覚えた。 「…はよ」  間が空いてしまったが、返事を返してみる。すると、巽は、 「誕生日おめでとう」  と、すんなり返してきた。 「ありがとう」  オレはお湯の雨を受けながら答えた。  少し間が空くとザッと水の音が聞えた。  音に目を向けると巽は湯から勢いよく立ち上がった所だった。飛沫が飛び跳ね、巽の体からも水滴達が零れ行く。何も纏っていない巽の体は均等がとれていて、とても綺麗な印象がある。 「確か十六だよね?」  巽はそう聞きながら湯船を出て、オレの横に進み寄ってきた。しかしオレは目のやり場に困って、さり気なく巽に背を向けて、シャワーを浴び続ける。  勿論ここは風呂なので互いに一糸まとわぬ姿であることは仕方のないことだ。見慣れてしまっていると言ってしまえば終わりだが、だからこそ無防備な状態を直視するのは恥ずかしくなる。 「うん」  と、オレは背中越しに頷いてみせる。すると背中に巽が寄りかかってきた。触れた巽の肌がとても熱く感じて余計に恥ずかしさが募る。 「ねえ、誕生日プレゼント何が良いかな?」  巽は縛って纏めていた髪を解きながら聞いてくる。オレはオレの肌をくすぐるその髪を振り返った。視界に入ったのは綺麗な顔をした自分の兄弟の策略を含んだ微笑み。気が付けば何処にも逃げ場のないオレの腕を掴まえ、巽は自分の腕の中へオレを引き寄せる。 「欲しい物は?」  さり気なく抱きしめられた形で優しい声に囁かれる。 「何も」  欲しい物なんて無い。  オレはそう思って頸を横に振った。 「本当に?」  優しい声がもう一度響く。だが巽の手はオレの背をなぞり始めていた。その感触に反応してしまいそうになりながらもオレは、 「必要ない」  と返事を呟いた。  もう十分な気がする。  オレはそう思う。
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