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 何千キロも離れた南の国に自分を殺害しようとする人間がいる。めまいがしそうだ。ジョージが口をはさんだ。 「タツオはいい。瑠子さまはなぜだ?」 「わからない。その場にいる最も価値あるターゲットだったからじゃないか。日乃元の皇室内のもめごとは氾にも聞こえているのだろう。瑠子さまを亡き者にできれば、皇室は大混乱だ」  いや、おかしいとタツオは直感した。普通の戦争では王族や指導者を直接狙うことはまずありえない。警備が鉄壁だというだけの理由ではなかった。暗殺に手を出せば、限りない暗殺の報復合戦になる。そんなことになれば、交戦中のどの国の指導者も安心して眠ることもできなくなるだろう。踏み越えてはならない一線が国家同士の総力戦のなかにもあるのだ。氾帝国が裏で絵を描き、ウルルクの独裁政権が勝手に暴走したのだということでごまかせると考えたのだろうか。ずいぶんと杜撰(ずさん)な作戦だ。
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