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長身の二人が歩く姿は様になる。誰もがお似合いと口にしている。
しかし――、
「夏目」
俺は静かにマグを置いて、パンフレットに見入っている夏目へ身体を向けた。
彼女はこちらに見向きもせず「何よ」と返事をする。
「小早川とは部活も学年も違うし接点ないよな」
そこでようやく夏目は顔を上げた。
頭のいい彼女のことだから俺の言いたいことはわかるはずだ。
夏目は俺の顔をじっと見てから、左手で髪をかき上げた。
おもむろに傾けた顔は「だから?」と言っている。
「真剣なのか」
自分のことを棚に上げてどの口が言うんだろうとそんな考えがよぎるが、生徒となると話は別だ。
ふっくらとした唇が緩やかな曲線を作った。
「保護者のつもり?」
「教師なんだから気にかけるのは当然だろ」
「教師……ね。どうもそれだけじゃないような気もするけど」
苦笑いを浮かべてパンフレットを閉じ、さっと立ち上がる。
掛時計を見ながらポケットに手を突っ込み、
「……そろそろ帰るわ。一旦家に帰って着替えないといけないし」
「夏目、まだ話は」
「じゃーね。皆さん、よいお年を」
呼び止める俺に目もくれず彼女は出ていった。
脚の長い彼女の歩幅は広い。ゆったりとした足音が遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。
「……ったく」
ソファにもたれかかる俺に三浦が「心配しすぎですよ」と笑いながら眼鏡を外した。
「たしかに夏目は恋愛ごとに関しては淡白な方ですけど、でもあいつなりに真剣なはずですよ。
そうでなきゃ、わざわざ人でごった返すクリスマスのみなとみらいなんかに行きやしませんって」
後ろポケットから取り出したグレーのクロスで丁寧にレンズを拭き、
「まあ、つき合い初めはそんなに気があったわけじゃなかったことは認めますけどね……。
でもだからこそ、こうして継続してることの意味わかるでしょ」
「……でも、」
「はは、本当に心配性ですね。気持ちはわかりますけど、今は教師と生徒の間柄なんですから妹離れしないと」
「別に……妹扱いなんてしてない」
「そうですか? 私情を挟んでるように見えましたけど」
「度数合ってないんじゃないか」
「先日新調したばかりです」
にっこりと笑ってぴかぴかになった眼鏡をかける。
たしかにフレームの形がいつもつけているものと少し違った。
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