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「――ほら、冬馬」
いつものように暖かい笑顔を浮かべ、彼は言った。
花の形をした白い皿を受け取る。
誰よりも大きめに切り分けられたチョコレートケーキ。
砂糖で作られたサンタクロースとトナカイ、クリスマスツリーが真っ赤な苺を囲んでいる。
部屋は軽快なメロディが踊っている。
有名どころのクリスマスソングを集めたCDは小夜のお気に入りで、毎年この季節になると必ず流している。
俺がコンポにセットしたそれは十二曲目に入ったところだ。
カラフルな砂糖菓子をフォークで突く。
「いいよ、このお菓子。いらない。小夜にあげる」
「いいわよ、私大人だもん」
パーマをかけたばかりの髪に派手な三角帽子を被った彼女は、胸を張って細長いグラスを傾ける。
シャンパンの泡がゆらりと揺れ、しゅわっと弾けた。
「大人とか子どもとか関係ないし。ていうか小夜二十歳になったばっかじゃん。大人って言えんの」
「もー、つべこべ言わないの。甘いの好きでしょ、冬馬」
「いいって。小夜、取ってよ」
「いい、私より冬馬にお似合いだもん」
「何それ」
子ども扱いされた気がしてむっと眉が寄る。
まあまあ、と笑いながら博兄が割って入った。
彼の頭にも三角帽子が載っかっている。ただちょっと後ろにずれていて、今にも落っこちてしまいそうだ。
「せっかくのクリスマスに喧嘩なんてするもんじゃないよ」
「してないわよ。冬馬が勝手にぷりぷりしてるだけで」
「してないよ」
「してる」
「してない」
「わかったわかった。ほら、みんなで分けっこしよう」
そう言ってクリスマスツリーを自分の皿に、サンタクロースを小夜の皿に移動させる。
それを見て、トナカイのように鼻を赤く染めた小夜が小首を傾げた。
「どうして冬馬がトナカイなの?」
「トナカイがよかった?」
「ううん、そうじゃなくて。なんでかしらって」
「ただ単に馬に似てるからだよ」
「あー、そっかー」
冬の馬だもんねー、と微笑む。
愛する人への笑顔はどうしてこんなにも眩しいのだろう。
まだアルコール耐性の低い、酔い始めてきた小夜の目を盗んで三角帽子を外す。
改めて見てみたそれは金ぴかで、パーティーの支度の段階から今の今まで一時間も被っていたと思うと恥ずかしくて耳が熱くなる。
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