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背中の後ろに隠し、煌々と光り輝く部屋の片隅に目を向ける。
背の高い博兄と同じくらいの背丈のクリスマスツリーもまた、十二月に入ると彼の家のリビングに現れる。
今はもう使われていない暖炉の隣の空きスペースが定位置だ。
ね、と一口分にしては大きいケーキを頬張りながら小夜が尋ねる。
「北斗くんと真広くんはまだ? 冬馬、呼んできてよ」
北斗は兄、真広は弟だ。
「あれ、言ってなかったっけ……。
二人ともいないよ。北斗兄は彼女とデート、真広は友達とパーティーだって」
ほとんどの家庭がそうかもしれないが、我が家のクリスマスはイヴの夜に開かれるパーティーで終了する。
二十五日はもう平日、大晦日へのカウントダウン開始の第一日目だ。
「叔母さんと叔父さんは?」
「母さんはゆっくり映画でも観るって言ってた。親父はまだ大学にいるよ」
「叔父さんらしいわね」
国立大学工学部の准教授である父は、祝日だろうがクリスマスだろうが平日と変わらず研究室の自分の部屋で仕事をしていたい合理主義者だ。
俺たち息子が産まれてからはイベントごとを意識するようになり積極的に動くようになったみたいだが、合理主義な性分は相変わらずで、今日みたいに家での催しがないとわかれば大学に行ってしまう。
母は口を尖らせているし、俺もあんまりに帰りが遅い日が続けば寂しくないわけではないが、しかし父の身軽さは好きでもある。
それはきっと俺が、北斗兄いわく父の血を見事に受け継いでいる理系――だからかもしれない。
「小夜、ケーキついてる」
「え、どこ?」
ここ、と博兄が小夜の口端を親指で拭う。
突然そんなことをされ、彼女は恥ずかしそうに「や、やだ」と言ってそっぽを向いた。
つき合ってもう二年になるのに初々しいな……。
俺の前では大人風を吹かす小夜も、好きな男の前となると途端に女の子だ。
昨日デートに着ていった上品なワンピースも、今着ているそのふわふわしたニットも、一人じゃ選べないからとちょっと前に買い物につき合わされ、俺が選んでやったものだ。
博兄の好みなんて俺より小夜が一番知っているはずなのに。
「――それで冬馬、勉強の方はどうだ」
小夜と同じくシャンパンを口に含んだ博兄が急に真顔になって尋ねる。
一人だけシャンメリーの俺は、少しつまらない気分でグラスを揺らす。
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