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それは突然だった。 「……京都?」 「そう。西の都、京都。……かーっ、運動した後のアルコールは最高だねぇ!」 数秒で空になったジョッキをカウンターに叩きつけ、中岡慧は感嘆の声を上げた。 「何が運動だよ。こんなのただの遊びだろ」 「お前も食えよ。上手いぞー」 俺の小言を聞き流してフライドポテトが盛られた皿をこちらへ滑らせる。 カウンターの中にいるバーテンダーが楽しそうに笑いながらジョッキに手を伸ばした。 グラスを手に取り、薄暗い店内に目を向ける。 壁際に並べられたダーツマシンの前で大学生や社会人など様々な年代のグループが互いの腕を競い合い、反対側の壁にある大きなスクリーンでは白黒の映画が映し出されている。 あれ、なんていったっけ……。 映画の題名を思い出しながら、俺はレッドアイを口に含んだ。 地元のダーツバーに通うようになって一年近くになる。 元々中岡が友人や仕事場の人間と頻繁に通っていたのだが、楽しいからとしつこく誘われて俺も足を運ぶようになった。 とはいってもダーツにさほど興味はなく、知らない人間と競う中岡の姿や映画に目を向けていることがほとんどだ。 アルコールの配分が強いな、といつもと違う感覚を味わいながら中岡に目を戻す。 二杯目のビールはもう半分も残っていない。 「で、何、京都って」 ああ、と中岡は自分の鞄に手を突っ込んだ。 「何してんの」 「まあ、待てって」 何だか俺が待ち切れないといったような言い草だ。 少し癪に障って返事をせずポテトを摘まんでいると、やがて隣の酒飲みは満面の笑みをこちらに寄せた。 「な、お前、冬休みとれるよな」 「……だから何」 口をもぐもぐさせながら訝しげに返すや否や、カウンターの上に大量の冊子が置かれた。 「じゃじゃーん! 冬休み、旅行しようぜ!」 そう言いつつすべての表紙が見えるように並べる。 そのどれもに、冬の京都、というフレーズがでかでかと踊っていた。 「……やだよ、面倒くさい」 中岡があんぐりと口を開けた。 本当に惜しみなく感情を晒す奴だ。
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