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「なんでだよ、いーじゃん! 行こうよ京都!」 「だから面倒くさいって。何が悲しくてせっかくの休暇にわざわざ混雑するようなとこに出向かなくちゃなんないんだよ」 「何年寄りみたいなこと言ってんだよ! いいじゃんかよ、寝れば疲れなんて取れるんだから。つーか」 大量のパンフレットの中から一冊選んで付箋が飛び出しているページを開く。 「ここ、もう予約しちゃったし」 「……は?」 中岡が指差したのは京都駅近くにあるホテルだった。 「もちろん同じ部屋ね。あ、ベッドはちゃんと二つあるから安心して」 勝手に予約するなんて……。 呆れてものがいえず、俺は片目を細めた。 「だってこうでもしないと行かないじゃん。お前インドアなんだから。 二十八日から二泊な。ちゃんと開けとけよ」 「何が開けとけよだよ。誰も行くなんて」 「もうホテルも新幹線のチケットも押さえたから。いいか、決定事項だからな」 「人の話聞けよ。行くなんて一言も言ってないだろ。 いいよ、俺は。仕事しなくちゃいけないし。他の誰かと行ってこいよ」 「他の誰かって誰だよ!」 「知るか」 「氷泉ぃ!」 泣き出しそうな顔をして中岡は俺の腕にしがみついた。 近くにいる男女がぎょっとしたようにこちらを見る。 「一緒に行こうよ! 俺、京都行きたいの!」 「じゃあ一人で行けよ。子どもじゃないんだから」 「喋り相手がいないなんてつまんない!」 うんざりしながら腕を振り払う。 再びポテトに手を伸ばしたところで、控えめにシャツを引っ張られた。 上目遣いで見つめてくるが可愛くもなんともない。 「……何だよ」 「な、行こうって」 しつこいな……。 「お前、京都行ったことないだろ? いいぞぉ、京都は。日本人なんだから一度は行っておかないと」 「何その変な理屈……」 「うるさい! いいから行くぞ! でないとキャンセル料、払わせるからな!」 「いくら」 財布が入った後ろポケットに手を当てる。 再び中岡は喚いた。 「そんなこと言うなよ! 俺が行きたがってたの知ってるだろ! 楽しいぞ、清水寺とか金閣寺とか。あとほら嵐山とか。知ってるだろ? トロッコ列車が走ってる……」 「……ああ」 それくらいなら知ってる。
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