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「秀さんはタバコ吸わないんですね? 」
「あぁ… 何でみんな吸うのかな? 」
「格好つけとか? 」
夏子はキザにタバコを吸う仕草でおどけて答える。
綺麗な女のそんな様子は微妙に男心をくすぐる。
「ふふ… バカバカしいよな…
金も地位も手に入れた。でも早死にしたら何の意味もない
俺の親父は毎日ショートホープっていうタバコを100本も吸うヘビースモーカーでね
更に大酒飲みで
俺は親父を見て来たからさ
そんなマヌケな人生を送るつもりはないよ」
「…………
秀さんのお父さんってどんな方だったんですか? 」
夏子が、ふと切な気な表情を見せた。
「う~ん… いわゆる成金だよ
群馬の貧しい農家の長男に生まれて、金持ち目指して上京して…
不動産屋で一旗上げたけど52歳で死んじゃって……」
「そうなんですね……」
夏子は寂しそうに睫毛を伏せた。
「うん……
俺が小学生の頃、徐々に贅沢が出来るようになってきてね
それまでの狭いアパートを出て庭付きの新築の家に引っ越して
今までの人生を取り返すように外食を始めて…
でも親父は、高そうな天ぷら屋に行ってもステーキ食べに行っても、取り敢えず醤油かけるんだよね
塩も天つゆもステーキソースもあるのにさ…
何を食べるのにも箸オンリーで、とにかく酒は日本酒のみ
中学生の頃には、そんな親父を見るのが切なくてさ…」
「………
分かります…」
俺は今まで、付き合った女に身の上話をするような男じゃなかったのに……
夏子の無防備さが俺の鎧を外してる?
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