34人が本棚に入れています
本棚に追加
でもね、とマチルダが笑う。
「男には妻がいた。当然、妻は怒り狂った。質の悪いことに男とその妻は……結構な権力と地位を持っていた。男は少女を守るために、女は少女を殺すために争った」
戦争が起きたんだよとマチルダは続ける。
「争いは……男の戦死で決着がついた。悲劇なのは一人残された少女。少女はね……自分の身を守るためにあることをした」
マチルダの眼が妖しく光る。
「残った味方の男たちと攻めこんでくる男たちに色香を振り撒き、互いに自分を取り合いさせて、全滅させたんだよ。勝てば私は貴方の者になると言って……ね」
月明かりだけが降り注ぐ。
「全てを見ていた男の妻は……少女に向かってこう言った……」
『お前なんか生むんじゃなかった!! この淫売が!! お前さえいなければ!!』
マチルダが男に顔を近付ける。
その瞳に写っているのは――白銀の月だけ。
「そうだよ。少女はアタシ。男は……アタシの父親だよ」
最初のコメントを投稿しよう!