あやかしの月の夜に

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でもね、とマチルダが笑う。 「男には妻がいた。当然、妻は怒り狂った。質の悪いことに男とその妻は……結構な権力と地位を持っていた。男は少女を守るために、女は少女を殺すために争った」 戦争が起きたんだよとマチルダは続ける。 「争いは……男の戦死で決着がついた。悲劇なのは一人残された少女。少女はね……自分の身を守るためにあることをした」 マチルダの眼が妖しく光る。 「残った味方の男たちと攻めこんでくる男たちに色香を振り撒き、互いに自分を取り合いさせて、全滅させたんだよ。勝てば私は貴方の者になると言って……ね」 月明かりだけが降り注ぐ。 「全てを見ていた男の妻は……少女に向かってこう言った……」 『お前なんか生むんじゃなかった!! この淫売が!! お前さえいなければ!!』 マチルダが男に顔を近付ける。 その瞳に写っているのは――白銀の月だけ。 「そうだよ。少女はアタシ。男は……アタシの父親だよ」
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