ラフマニノフから

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 その年の日本音楽コンクールは、池袋の西口公園にある東京芸術劇場の大ホールで行われる事となっていた。 明日に控えた日本音楽コンクールピアノ部門の決勝のリハーサルが行われていた。  広いステージの中央にはグランドピアノと指揮台が設置され、オーケストラはその二つを取り囲むようにセッティングされていた。 隔年で、オーケストラと共演するピアノコンチェルトが課題曲となっているピアノ部門の決勝は、一次予選から勝ち抜いてきた精鋭達の壮観な競演となる。  オーケストラの団員達はステージの定位置に着き、主役のピアノ奏者が現れるまで思い思いの音を出し、練習をしていた。 その中から囁く声が聞こえる。 「次が例のラフマニノフか」 「ああ。まだ高校3年生らしいぞ」 「こんな誰もが知る名曲を選ぶのは若気の至りだな」 「18の小娘に弾きこなせる曲じゃないだろう」  そんな会話の中には意地悪な薄笑いも含まれていた。
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