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「この子を……美羽を、守って」
その言葉に隠された意味が、痛いほど伝わった。
私はいいの、だからこの子を。
彼女の‘時間’が、自分が医師になれる日まで残されていないであろう事は、信じたくはなくとも心の何処かで分かっていた。
――なぜ生んだ。生まなければさっちゃんはきっと、もっと長く……。
口にはできない想いを心中にしまい込み、
「俺が医者になるって決めたのは、さっちゃんの為だ」
少年は震える声でそう言うのが精いっぱいだった。
彼女は茜色の光の中で目を細め、少年に優しく微笑みかけた。
「ありがとう、忍。大好きよ」
少年は胸に、柔らかな針で刺されたような微かな痛みを覚えた――。
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