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思えば何度も肌を重ねていながら、キスは決して彼からではなく自分から――綾子は小さくため息をついた。
タバコを吸わなくなった時期は確か、と綾子は記憶を手繰った。
4年前だわ――吸い込んだタバコの、メンソールの味がぼやけていた記憶のビジョンをクリアにした。
綾子は、忍の様子が変わった4年前に思いを馳せながら、吐き出した煙に目を細めた。
立ち上がった忍はホテルの部屋の、窓際のテーブルにあった呑みかけのビールグラスを取りながら携帯を手にし、病院から連絡がないかチェックした。
タバコをくわえ直した綾子はその彼の背中を見つめる。
スリムだが程よくついた美しく締まった筋肉が、滑らかな流線型を描く背中。
手を伸ばし、再び触れたい衝動を抑え、綾子はフフッと笑った。
「循環器内科の緒方先生は、どんなにアプローチしても看護師は絶対相手にしてくれないのよって、ウチの階のナース達が噂してたわ」
飲み干したグラスをテーブルに戻した忍の肩が小さく揺れた。
薄く笑ったようだった。
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