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タバコをくわえ、ぷいと横を向いた綾子。
忍はハハハと笑い、傍に置かれていたバスローブを掴み、部屋から出て行った。
バスルームのドアの向こうに消えた忍の残像を追う綾子は、プライベート……ねぇ……と、揺れ上る煙を見つめ小さく呟いた。
彼にプライベートなどあるのだろうか。
こうして濃密な時を幾度も過ごして肌を重ねてきたのに、忍はその背後にあるものを決して見せる事はなく、また、見えてもこなかった。
彼の本心はいつもどこにあるのか、分からなかった。
いつもその心に踏み込ませない。
掴ませそうで掴ませない。
サラリと交わす――綾子の艶やかな桜貝のような唇からはため息となった煙が吐き出された――。
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