ラフマニノフから

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まるで映画音楽のようにロマンチックなその曲を、こんな少女が弾きこなせる訳が――その時は、誰もがそう思った。 そう、彼女がピアノの前に座り、指揮者がタクトを振り下ろしたその瞬間までは。  空気が変わった。その場にいた誰もがそう思った。  一呼吸した美羽が鍵盤に指を落とした瞬間、この空間の色が変わったようだった。  ピアノの重いカデンツから始まる曲だったが、その存在感と音色、彼女が作る雰囲気に誰もが息を呑んだ。  超絶技巧をものともせず、次第にダイナミックになってゆくメロディーに合わせ層が厚くなってゆくオーケストラにもまったく消されずかえってその音色を際立たせていった。 ――天才が、いた――!  オケも指揮者も、関わる全ての人間を巻き込み呑み込む。 明日の優勝者は、彼女だ――誰もが、そう思い、美羽のピアノの音色に酔いしれた。 しかし――、曲が最高潮の盛り上がりを見せるクライマックス。 ダイナミックな音量で奏でるオーケストラに乗せるように鳴り響いていたピアノの音が、フッと消えた。 真っ先に異変に気付いたコンダクターが、指揮棒を下ろし、ピアノの方を見たが、その視界から、美羽が消えていた。 「緒方さん――!?」 「誰か、救急車を――!」  
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