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眩しげに眼を細めていた少年に気付いた女性が微笑んだ。
「あら、忍。来てくれたの」
ああ、とだけ答えた少年は、照れ隠しに外した視線を眠る少女に向けた。
「母さんから、さっちゃんのとこにいる美羽を迎えに行ってくれって言われたから」
そう……と、さっちゃん、と呼ばれた女性は、少しだけ哀しげな色が挿した視線を膝の上で眠る少女に落とした。
その表情が、少年の胸を締め付けた。
女性の顔には、酸素を送るチューブ。
胸には心電図のコード。
身体を起こしてはいるが……辛そうに見えた。
「ねぇ、忍……」
ベッドの傍に置かれた椅子に少年がそっと座った時、女性が静かに声を掛けた。
顔を上げた少年に彼女は、膝の上の、少女の背中を愛しそうにさすりながら話し始めた。
「私……この子が女の子になるのが見たかったな……。
恋をするこの子の傍にいてあげたかったな……」
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