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梅には梅の事情があった。
彼女の言うとおり、銀座の支店で働いていることすら、俺からすれば凄いことなのだから。
最後のひとくちのコーヒーを飲み終えると、梅はふと呟いた。
「ねえ……。」
「ん?」
「久しぶりに、聖の作ったケーキが食べたい。」
「いいけど……余りものでよければ。」
俺の言葉に、彼女は不意に笑顔を見せる。
付き合い始めたころは、毎日見せてくれた無邪気な笑顔。
梅は初めて付き合った女の子だったから、彼女の何気ない行動にいつもドキドキさせられていたのに。
今は妙に懐かしさを抱くだけだ。
店を出ると、おそらく今日も幾つかは余っているであろうケーキを取りに、うちへと向かう。
いや……もしかしたら琴ちゃんが、全部持って帰ってしまったかもしれない。
その時はその時か……と。
嬉しそうにケーキを箱に詰める琴ちゃんの笑顔を思い出しては、自然と顔が綻んでしまう。
そんな俺を察したのか、梅はズバリ訊いてきた。
「……あの女の子とは、上手くいきそうなの?」
「そんな風に見える?」
「見えない。聖、そういうことに関しては不器用だと思うから。」
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