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「……もう、答え出ているじゃん。」
「え?」
「やっぱり、聖はパリに行くべきだよ。それで……色んなことを勉強して、彼女に伝えてあげるべきだよ。彼女の未来のために。」
「彼女の……未来?」
「彼女がパティシエになりたいって言うのなら、尚更だよ。」
確かに、そうなんだ。
ずっと断ろうと思っていたのに、いつの間にか心は動かされていた。
俺一人では、気づけずに見過ごしてしまうところだった。
今のことしか考えていなかった俺に、これから先のことを考えさせてくれた人たちの言葉たち。
「前向きに考えたらさ、今ここで一緒にいることよりも、この先も一緒にいたいって気持ちのほうが大切なんじゃないの?」
大切にしたいものは沢山ある。
父さんの夢、琴ちゃんの夢。
俺自身が思い描いていた憧れ。
そして……彼女を想う、この恋心。
全てを切り離して考えていたけれど、実はそうではない。
全てはひとつのベクトルへと向いていることに、漸く気付いた。
「……あと1日だけ、時間をくれないか?」
「え?」
「明日必ず、返事をする。」
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