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「……確かに、そうかもな……。」
あの頃の俺は、梅に対する劣等感の塊で。
何に対してもネガティブで消極的で。
そのことを指摘されては、小さな喧嘩ばかり繰り返していた。
梅と別れてからも、俺の性格が直ることはなかったけれど。
それでも今……やっと、変われそうな気がするんだ。
琴ちゃんに出会ったから。
琴ちゃんが目の前に現れた日から、俺の現実は何もかもが違って見えるようになったから。
彼女の笑顔が、俺を変えてくれたんだ……。
「梅は、好きな人……いるの?」
その言葉に、梅は少し気まずそうにしながらも、答えてくれる。
「うん。職場の先輩に、絶賛片想い中。」
「もしかして……それも、パリに行かない理由?」
「……聖にはあんな風に言っておいて、狡いよね。」
「そんなことないよ。梅が決めたことなんだから、狡いだなんて思わない。」
それに梅は俺とは違って、まだまだ成長し続けられる環境の中にいるのだから。
好きな人と離れたくないことを、理由のひとつとしたことに狡さなんて感じない。
本当に狡いのは、それを理由に自分の夢から目を逸らして生き続けることなのだから。
「聖、少し変わったよね。」
「え?」
「何っていうか……昔よりも、優しくなったかなって。良い意味でね。」
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