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「……今日、夕方から用事あるって言っていたの……あの人に会うためだったの?」
「うん、まあ……」
少し返事に躊躇ってしまったのは、会った理由がフランソワの件についてだったから。
琴ちゃんには、もう終わったことだと言っておきながら、実はまだ悩んでいたのだから。
すると彼女は、思いも寄らない言葉を口にした。
「コウちゃん、あの人のこと……好きなの?」
「え、まさか。それだけは絶対に有りえない。」
「じゃあ……どうして?」
梅との関係を誤解されるくらいなら、本当のことを話してしまったほうが良い。
そう思って、ずっと彼女には言えずにいたことを話す決意をした。
「俺……実を言うと、ずっと迷っていたんだ。」
「え……?」
「フランソワの、本店での修業の件。行かないでおこうって一度は決めたのに、父さんや梅の言葉が頭から離れなくて……」
ずっと、迷っていた。
けれども漸く心を決めた。
梅には明日返事をすると言ったけれど、俺の気持ちは完全に固まっていた。
「琴ちゃん。俺……パリに、行ってみようと思う。」
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