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それが、いちばん良い選択だと思った。
不安要素なら、数えきれないくらいにあるけれど。
きっと、行かないと一生後悔をする。
何かに躓くたびに、自分の選んだ道を悔やんで、自己嫌悪に陥ってしまう。
「パティシエとして、もっと成長したいんだ。」
「……。」
「それで学んできたことを、この店で生かしていきたいって思う。」
自分の意思を、初めて口にした。
その相手が琴ちゃんで良かった。
いちばん大切にしたい人に、いちばん最初に伝えられて良かった……と、思っていたのに。
「……そうだね、その方が……コウちゃんのためだもん。」
「琴ちゃん……?」
その声は、少し震えている。
何かを堪えているような、悲痛な響きのようにも感じられる。
俺へ向けられる視線は、どう捉えても好意的なものだとは思えなかった。
「でも、行かないって言ったのに……。」
「……。」
「……パリでもどこでも、勝手に行っちゃえばいいじゃん。」
「え……?」
彼女らしくない、突き放した言葉。
いつもみたく笑顔で応援してくれると思ったのに。
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