3871人が本棚に入れています
本棚に追加
/226ページ
.
俺が父さんの立場だったら、こんなに潔くエールなんて送れない。
やはり父さんは、何年たっても幼いころに憧れた父さんのままだと実感した。
「サンキュ……で、代わりの人はどうするの?」
店の心配をしているのも半分。
けれどももう半分は、琴ちゃんのことを心配して。
あんな言葉を投げかけられて、それでも未練たらしく彼女のことを考えてしまうなんて、俺は生粋のドMなのだろうか。
その質問に父さんは、何かを思い出したかのような顔を浮かべ、答えてくれる。
「そうそう、その件なんだけれど。
琴ちゃんのお母さんの昔からの友達で、パティシエとして店を出している人がいるんだと。
そこのお店のスタッフさんが、日替わりで手伝いにきて下さるようだ。」
「へぇ……それは良かった。」
「そうだろ。捨てる神あれば、拾う神あるってこういうことだな。」
「俺は別に捨ててなんか……」
「ごめん。冗談だよ。理由は何であれ、お前が進みたい道を選んでくれたことが……父さんは嬉しいよ。」
そう言って、優しく頭を撫でてくれる。
漠然と父の背中を見ながら、格好いいと憧れていた子供の頃に、何度もそうしてくれたように。
.
最初のコメントを投稿しよう!