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「あの……琴ちゃん……」
閉店後、後片付けをしている琴ちゃんに、背後から話しかけてみる。
すると、手は止めてくれるものの、こっちを見ようとはしてくれなかった。
「何……?」
「いや、別に用はないんだけど……。」
「……。」
俺が何も言えないでいると、彼女は作業を再開する。
その様子をじっと見つめていると、ふと一瞬だけ上がった視線がこっちを見た。
気まずそうに目を逸らされる。
「……どうして、こっち向いてくれないの?」
「……。」
「俺のこと……応援、してくれないの?」
何もかもが順調に進んでいく日々。
琴ちゃんのことだけが、ずっと気がかりだった。
夢を叶えられるという高揚感と共に、琴ちゃんとの距離が遠ざかっていく現実に戸惑う。
今までの琴ちゃんの笑顔に、挫折しかけた心は何度も救われたけれど。
この先もずっと変わらずに笑いかけていて欲しいなんて、虫が良すぎる話だろうか。
俺の言葉に、唇を噛みしめていた彼女が漸く口を開いた。
「だって……あの人に、言われたからなんでしょ?」
「え……?」
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