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「あの女の人に誘われたから、パリに行くって決めたんでしょ!?」
「それは、違う……」
「そんなの、応援できないもん!!」
声を露わにして、俺の言葉を強く遮る。
聞く耳を持たない頑固さに、どうしようかと頭を抱えたくなる反面、胸の奥では小さな期待がどんどん膨らんできている。
だって、そんなの……やきもちを妬いているみたいだから。
けれども、またも微かに浮かび上がった涙に、そんなめでたい気持ちは吹き飛んでしまう。
もう……正直に話すしかない。
遅かれ早かれ、出発前にはきちんと伝えようとしていたのだから。
そう覚悟を決めたのも束の間、琴ちゃんは俺を避けるようにして、そそくさと奥へと行ってしまった。
代わりに登場したのは、母さんだった。
「琴ちゃんの声、聞こえてきたけど。何かあったの?」
「ん……、別に何もないけど。」
今すぐ彼女を追いかけたいのに、母さんがそうさせてはくれない。
明日の営業に関しての、何らかの話をしているようだが、琴ちゃんのことが気になって全てが耳から耳へと通り抜けていく。
「ちょっと、あんた……聞いてる?」
「あ、うん……。卵の発注だっけ……」
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