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頭に残っていた単語を掻き集め、何とか辻褄を合わせていると、帰る支度を終えた琴ちゃんが笑顔で挨拶してきた。
いや……その笑顔も正式には、母さんに向けられたものだ。
「お疲れ様でした。来週からは、いつもどおり宜しくお願いします!」
「はいはい、気を付けて帰ってねー。お疲れ様。」
店を去っていく小さな影が見えなくなるまで、俺は視線を追った。
すると、同じように彼女を見送っていた母さんが、不意に話しかけてくる。
「あんた……琴ちゃんに、感謝しなさいよ?」
「え?」
「うちにね、あんたの代わりに新しい人を探してきてくれたの……琴ちゃんなのよ。」
「……。」
初めは、母さんが何を言っているのか、意味が分からなかった。
ついさっき琴ちゃんは、俺がパリに行くことを応援できないと言った。
それなのに彼女が、そんな真似をするだろうか……?
そんな小さな矛盾は、母さんから告げられた真実によって全て覆される。
「あなたが初めてパリ行きの話をしてくれた日から、心置きなく行けるようにって、琴ちゃんなりに凄く考えてくれていたみたいで。」
「え……?」
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