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その日は休みにもかかわらず、ケーキを焼いていた。
けれどもこれは、不特定多数の誰かへのためでなく、たったひとりの女の子のために。
思い返してみれば、琴ちゃんのためにケーキを焼くのは初めてかもしれない。
営業用で残ったものを、彼女が口にすることは頻繁にあったけれども。
どんなケーキをしようかと、幸せそうにケーキを頬張る姿を思い出す。
真っ白いホイップたっぷりのショートケーキ、甘くてほろ苦いチョコレートケーキ、一緒にここで作ったスフレケーキ。
色々と迷う中で目についた、キャロットハニーに使用しているマジパンの欠片。
ケーキの中でこれがいちばん大好きだ、と。
キャロットハニーの売り出し初日、全く売れない中で自信を失いかけていた俺に、一生懸命に伝えてくれた言葉。
今、その気持ちに応えたいと思った。
そして、拙い言葉を並べてでも伝えたかった。
格好いいシチュエーションなんて、俺には似合わない。
変に飾ろうとしなくても、琴ちゃんなら分かってくれる。
だって彼女は、こんな俺が好きになった女の子なのだから。
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