第5話 つながる未来へ約束を

9/22

3876人が本棚に入れています
本棚に追加
/226ページ
. 時間をかけて、ひとつひとつ丁寧に仕上げていく。 単純作業になりがちな工程も、琴ちゃんのことを想えば、気持ちの入れ込み具合が違ってくる。 夕方頃、漸く仕上がったのは、いつもと変わらないキャロットハニーだった。 琴ちゃんに渡すからと言って、特別な施しは何もしていない。 そんなものは必要ないと思ったから。 このケーキには、俺の気持ちがふんだんに込められている。 大切なのはそこだ。 「父さん、あとで車借りるよ。」 「いいけど、気を付けるんだぞ。ペーパーなんだから。」 その言葉のとおり、俺は生粋のペーパードライバーだ。 駅までは徒歩10分ほどで行けるし、近所に出かけるときは基本的に自転車だ。 運転するのは、恐らく半年ぶりくらいだろうか。 でも、運転が苦手なのかと言われたら、そうでもない。 車に乗るのはむしろ嫌いではない。 ただ、乗る必要性がなかっただけだ。 一旦部屋に戻り、テーブルの上に無造作に置いていた携帯を手に取る。 メモリーにいつの間にか入っていた、琴ちゃんの電話番号とメアド。 「あとは……連絡、だな。」 自分からは、まだ一度も使ったことがない連絡先。 使わずしても、彼女は毎日のようにここに働きにきてくれていたから。 そして、あの笑顔は――― 携帯越しでは伝わらないから。 .
/226ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3876人が本棚に入れています
本棚に追加