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父さんに借りた車に乗って、指定された公園までは10分ほどで着いた。
気持ちが落ち着かないせいもあってが、予定よりも20分も早く到着してしまった。
着いたことを連絡しようと思ったけれど、彼女を急かすようなことはしたくなかったので、途中でやめた。
車の中で待っていたらいいのに、外の冷たい空気を無性に吸いたくて、白い息を吐きながら空を眺めていた。
すると、まだ5分も経っていないのに、奥にあるマンションのほうから、小さな影がこっちに向かってくるのが見えた。
見覚えのある赤いニット帽を被った、琴ちゃんの姿だった。
俺に気づくと、足早に近づいて来てくれた。
「……まだ15分前だよ。早いね。」
「コウちゃんこそ! 前に一緒に出掛けた時は、ギリギリだったのに。」
「ギリギリじゃないよ。あれだって10分前には……」
……って、今はそんなこと、どうだっていい。
白い手袋をした手で鼻を覆い隠し、ハァーと寒そうに息を吐きかける琴ちゃん。
確かに、こんな寒い屋外では長居させられない。
「……取り敢えず、あれに乗ろうか。」
「え……?」
指でさし示したのは、10メートルほど先に停めてあった、赤いコンパクトカー。
主に利用するのは父さんだが、この色を選んだのは母さんだ。
その可愛らしい形状は、俺には不似合の一品だ。
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