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楽しそうに、前に家族でここに来たときの話を聞かせてくれる。
お父さんとお母さんが恋人みたいにイチャイチャするから、弟とふたりで恥ずかしくて堪らくなった話。
食べ放題の店で、お母さんと張り合って大量の料理を平らげて、帰りにお腹を壊してしまった話。
お気に入りの店で試着したワンピースを、お父さんが可愛いと褒めてくれて、色違いで2枚も買ってくれた話。
そこには彼女の、温かくて幸せな思い出が詰まっていた。
こんな風に、嬉しそうに笑う君を独占できて。
こんな風に、恋人のような甘い時間を共有できて。
それだけで幸せだと思えていたのに、
俺は――― 君が欲しいんだ。
肺の中までしみわたるような寒さが。
夜の静寂な雰囲気が。
遠くで輝く妖艶なイルミネーションが。
傍に漂う甘い香りが、無意識に彼女の腕を引きよせていた。
「……コウ、ちゃん……?」
「俺は、君が好きなのに……自分の夢を諦められない。」
「……。」
「離したくないのに、離れる選択を選んで……矛盾したことばかり言ってゴメン。」
小さな身体は、少しでも力強く抱きしめてしまえば壊れてしまいそうで。
けれども、そうしないと気持ちが伝わらないような気がして。
彼女が拒まないことをいいことに、優しくしっかりと抱きしめる。
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