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「でも誰が何って言ったって、俺が好きなのは……琴ちゃんなんだ。」
「……。」
「絶対に……ここに戻ってくるから。琴ちゃんのところに戻るって約束するから。
だから……他の男のものに、ならないで……」
自分勝手な願いだ。
夢も叶えたい。
でも、彼女の心も欲しい。
俺にとって全く価値の違うふたつを、天秤にかけることなんてできない。
狡い男だと罵られても構わない。
でも、どうせ最後になるのならば、全てを伝えきりたい。
どれくらい、その状態でいたのかは分からない。
どこからともなく聞こえてきた汽笛が、止まりかけていた時間を再び動かした。
胸のあたりで、もぞっと彼女の頭が縦に動く。
最初は何をしたいのか分からなかった。
けれどもそれは、何度も頷いてくれているようにも思えた。
その様子を上から覗き込むように見ていると、消え入るような小さな声が聞こえる。
「……あたし……正直に、言っていいの……?」
「え……?」
「離れたくないって思ったのは……コウちゃんのことが、好きだったからなんだって。」
「……。」
「酷いこと、いっぱい言っちゃったのに……好きだって言っていいの……?」
顔を上げた彼女の目からは、どうにもならないほどの涙が溢れていた。
他人の泣き顔なんて、見ていて気分のいいものでは決してないけれど。
琴ちゃんだけは特別だ。
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