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「……大丈夫だよ。」
何度もそう言いながら、彼女の頭を優しく撫でる。
そうすればするほど、彼女の鳴き声は次第に和らいでいき、真っ赤に腫れた瞳がこっちを見上げていた。
「俺……琴ちゃんに会うまではさ、何に対しても消極的で諦めも早くてさ。
お菓子作る以外に趣味も特技もないし……かと言って、人より飛びぬけた才能があるわけでもないし。」
「で、でも……コウちゃんは……」
「でも今はさ……前に進みたいって、やっと思えるようになったんだ。自分のためだけでなく、誰かのために。
あの人は、キッカケを作ってくれただけ。
俺を動かしてくれたのは……君だよ、琴ちゃん。」
自信を持てずにいた俺に、君はいつでも元気を分け与えてくれた。
何か深い信念でもあるかのように、力強い言葉で背中を押してくれた。
今の自分に迷っているときも、悔しいときも辛いときも。
そして嬉しいときは一緒に喜んでくれて、幸せは2倍になった。
「あの日に出会ったのが、琴ちゃんじゃなかったら……傍にいるのが別の人だったら、俺はきっと駄目なままだった。」
「ううっ……」
「俺を変えてくれたのは……琴ちゃんだよ。
こんな俺の傍にいてくれて、慕ってくれて……好きになってくれて本当にありがとう。」
そこまで言いきると、琴ちゃんの涙腺はまた決壊していた。
その姿が堪らなく愛しかった。
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