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帰りの車の中。
そこはまるで、一足先に春がやってきたかのように、温かく陽気な雰囲気に包まれている。
ちらちらと俺の横顔を見てくる、彼女の不審な行動にも気づいていた。
俺が逆の立場なら、きっと同じことをしていたに違いないから、あえてそこは触れないでおこう。
気持ちは繋がった。
俺は彼女に好きだと伝え、彼女も同じ気持ちだと応えてくれた。
これって……もしかして、俺たちは恋人同士になったということだろうか?
……訊けない。
そんなこと、恥ずかしくて訊けるはずがない。
「……門限、間に合いそう?」
「うん……。」
会話が続かない。
けれども今は、そんなもの必要ないとも思っていた。
信号待ちでふと隣を見た瞬間に、バチッと合ってしまった視線。
いつもの可愛い照れた顔で、彼女は応えてくれた。
まだ、夢心地の中にある現実。
「そうだ……琴ちゃん、後ろの紙袋取ってくれる?」
「あ、うん。紙袋だね。」
その中には、彼女のために作ったキャロットハニーが入っている。
何も知らない彼女が、それを俺に渡そうとするのを止めた。
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