第1話 お菓子な君に恋をした

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***** 朝11時。 小さなベルの音と共に、店の扉が開かれる。 俺が挨拶をする前に、その人物は明るい声で話しかけてくれた。 「コウちゃん、おはよう。今日も朝からいい香りねー。」 「あ、直子おばさん。おはようございます。」 この直子おばさんは隣の家に住む人で、この店のいちばんの常連さんだ。 父さん直伝のハチミツロールを、毎朝いちばんに誰よりも早く買いにきてくれる。 「わざわざ出向かなくても、家まで持って行きますよ?」 「そうね、でも……こうして毎日ここに来るのが、日課になっちゃっているから。」 そう言って今日も、焼き立てのハチミツロールを注文してくれる。 ハニーの名前を語っているがゆえに、うちの店の名物でもある品だ。 開店当初は少し話題になって、これを買うために行列ができたり、雑誌に取り上げられたりしていたみたいだけれど。 そんなのは所詮、過去の栄光だ。 壁に貼られた昔の雑誌の切り抜きは日に焼けてしまって、今はもうみすぼらしい代物でしかない。 それもそのはず。 今はこんな店に来なくたって、外にはお洒落なカフェがある。 凝ったスイーツと洗練されたサービスがある。 俺は、お菓子作りは専門だけれど、どうも人と接することは苦手だ。 直子おばさんは昔からの知り合いなので気心しれているが、基本的な接客は全て母さんの役目だから。 俺はただ、父さんの教えてくれたレシピ通りに、決められた分量を守ってケーキを焼くだけだ。 正直これは、俺でなくてもできる仕事だ。 .
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