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ケーキを食べ終えてレジでお会計をしていると、奥の厨房から作りたてのケーキが運ばれてくる。
完売間近だった『koto』にも、更なる追加がやってくる。
きっと、今朝からコウちゃんが一生懸命に作ったケーキたち。
コック服に身をまとったパティシエさん達が、ショーケースに器用に入れ替えていく様子を、物珍しげにじっと見つめる。
すると、どこからともなく聞き慣れた声がした。
「……琴ちゃん?」
視線を上げると、そこには空になったケーキ皿を持っている、コウちゃんの姿があった。
勿論、驚いているのは言うまでもない。
わたしの目の前にある『koto』に気づき、不自然に目を逸らし始める。
彼が照れ隠しをしている証拠だ。
「コウちゃん……これ……」
「……見つかっちゃったか。知られたら恥ずかしいから、連れて来たくなかったのに。」
そっか……。
自分の職場を見られたくなかったんじゃなくて、このケーキの名前を知られるのが、恥ずかしかっただけなんだ……。
明らかになった新事実に、ホッとする。
「勝手に名前使って、ごめん……」
「そんなのいいよっ! それに、これって……」
ケーキに関して、訊きたいことは山のようにあった。
けれどもそこに参入してきたのは、お会計を終えたパパだった。
コウちゃんの存在に気づき、柔らかな微笑みが浮かぶ。
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