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「……『koto』は、コウちゃんが作ったケーキなの?」
「うん……そうだよ。俺がこっちに来て、初めて人から認められたケーキ。
スポンジはキャロットハニーの作り方をベースにして、蜂蜜風味のクリームとソースで仕上げたんだ。」
「やっぱり……。凄く、美味しかったよ。」
わたしの言葉に、コウちゃんは照れくさそうに鼻の先を掻く。
そして、不意に目を逸らしながら、独り言のように呟いた。
「琴ちゃんをイメージして、作った。」
「え……?」
「琴ちゃんは俺に、蜂蜜みたいな甘い気持ちを……いつも沢山くれるから。」
「……。」
照れ臭い気持ちは、絶対に目を逸らしながら口にする。
けれども、本当に伝えたいことは、きちんとわたしの目を見て口にしてくれる。
「……琴ちゃんの笑顔が、俺のパティシエとしての力の源なんだよ。」
「……。」
「本当は、琴ちゃんに食べて欲しかった。
だから……恥ずかしいけど、嬉しいよ。」
誰かを幸せにできる仕事。
けれども、その笑顔で自分も幸せになれる。
まるで魔法の連鎖反応だ。
わたしでも、コウちゃんみたいになれるのかな……。
いや、そうじゃない。
コウちゃんみたいに、なりたいんだ……。
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