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その日の夜。
夕方には仕事を終わらせて、俺と彼女は久しぶりに外で食事をした。
前から彼女が食べたがっていた、美味しいフランスの家庭料理が食べられると話題になっている店だ。
「今日は飲んでもいい?」
「良いけど……明日、起きれなくなるよ?」
「大丈夫! 明日こそは、コウちゃんが起こしてくれるって信じているもん!」
だったら、俺を誘惑するような寝顔は見せないでよ……。
そう言いたくなるのを、必死で堪えた。
目の前では、幸せそうに甘いカクテルを口にする彼女の姿。
「……そうだ、コウちゃん。」
「ん……?」
「明日、何の日か覚えている?」
そう言いながら、俺の返事に期待をしながら待っている、彼女の姿が可愛くて仕方なくて。
けれども、その反応が見たくて、わざと期待外れ言葉を口にした。
「……明日は、佃煮の日だね。」
「へ!? つくだに!?」
俺の言葉に、驚きと落胆の表情を見せる彼女。
その理由は、たったひとつ。
忘れるはずなんかないのに……。
自分のことは忘れても、大切な人の大事な記念日を。
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