3890人が本棚に入れています
本棚に追加
.
ダイヤも何もついていない、ただのシンプルなシルバーリング。
それを空に翳すようにして、愛おしげに見つめる彼女の横顔。
「これって……婚約指輪?」
「ううん。婚約指輪の、一歩手前の指輪。」
「ふっ……。そんなの、初めて聞いたよ?」
「俺も、初めて言った。」
俺がそう言うと、彼女は目を潤ませる。
もう何百回も見てきたであろう涙を、そっと指先で拭ってみせると、彼女は恥ずかしそうに見つめてくる。
そして、声を震わせながら訊いてきた。
「……いつか、本物をくれるの?」
「うん……必ずあげるよ。約束する。」
そう言って、俺たちは小指を繋げて約束を交わした。
遠くて近い未来の約束。
「琴……これからも一緒に、誕生日を迎えような。」
何年たっても、何十年たっても。
ここに君がいれば、それだけで幸せで。
甘いお菓子と、君の甘い笑顔に囲まれた生活が、俺にとっての何よりの幸せなんだと。
これからもずっと、信じているよ……。
『honey girl*』 【完】
最初のコメントを投稿しよう!