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けれどもそれを、不満に思っているわけではない。
むしろ不満に思っているのは父さんや、周りの友人達だ。
もっと自分の作りたいものを作ればいいのだ、と。
確かに俺が製菓学校を卒業したのは、ずっと父さんの背中を見て育ってきたからだ。
俺とは違って人当たりの良い父さんは、多くの人に慕われていて、その頃のよしみで何とか経営は上手くいっている。
今があるのは、父さんの顔があってのことだ。
そんな父さんの作ったケーキを差し置いて、俺なんかがこのショーケースに自分のケーキを飾れるものか。
父親に対する尊敬の位と、そして自分に対する劣等感と。
そんなふたつの感情に挟まれながら、俺は日々過ごしていた。
「こんにちは。ハチミツロールと、チーズケーキを4カット下さい。」
「あ、はい……ありがとうございます。」
いつもなら接客は母さんの役目だが、今日は午前中、商店街の集まりとやらで不在だ。
父さんも病院の日だし、今ここには俺しかいないので仕方なく応対する。
ひとりで充分に回せるほどの数しか、お客さんは来ないのだから。
「あれ……? 今日はお母さん、御不在なんですか?」
「ええ。午後には戻りますが。」
「そうですか……。あ、この前……おミカン頂いたんで、御礼を言っておいて貰えませんか? とても美味しかったですって。」
「あ……はい。伝えておきます。」
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