第1話 お菓子な君に恋をした

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. 彼女の顔を見ると、何となく見覚えのある顔だ。 俺の母さんと同い年くらいの優しそうな女性。 確か月1回くらい来てくれて、ハチミツロールとケーキを4切れ買って行ってくれる人だ。 母さんといつも楽しげに話している横顔を、うっすらと覚えている。 「じゃあ、ありがとうございました。」 そう言って彼女は小さく頭を下げて、店を後にした。 俺がもっと気の利いた性格だったら、「いつもありがとうございます」とか「また来てくださいね」とか、そんな言葉を添えることができたのに。 本当、根暗って困る……が。 そんな反省に苛まれる間もなく、今日は珍しくお客さんが朝からコンスタントに入ってくる。 いつもは半分近く売れ余ってしまうケーキも、午後を過ぎたころには4分の1まで減っていて、それには母さんも驚いている様子だった。 「これは……ハニーガーデンの再ブームの到来だわ! お父さんにも知らせなくちゃね!」 「……。」 閉店間際にはほぼ完売状態のショーケースを見ながら、母さんは浮き足で中へと戻っていく。 そして俺は閉店準備をしながら、ショーケースに残っていた数少ないケーキを取り出した。 うちのケーキは基本的に、一部を除いてはほとんどが当日廃棄。 売れ残った分は全て処理をする。 この仕事を始めた頃は、それに対して罪悪感を抱いていたけれど、今では自分の作ったものだから別にいいかと、業務的な感情しか抱かなくなった。 .
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